数多あるペルーガストロノミアの中で、最もペルーらしい食べ物といっても過言ではないHumida(ウミータ)。インカ帝国時代(もしくはその遥か以前)から食べられ、インカの覇権とともにタワンティンスーユ各地に広まったトウモロコシのチマキです。
ケチュア語のHumint’a(ウミンタ)を語源とするウミータについての最も古い文献のひとつは、スペイン人コンキスタドールとインカ王女との間に生まれたインカ・ガルシラソ・デ・ラ・ベガによるもの。クスコで生まれた1539年から1560年にスペインに移住するまでの、ペルー生活の中で食べたウミンタについて記されているそうです。
母方からインカの歴史やその栄光を聞かされながら育ったであろうインカ・ガルシラソ・デ・ラ・ベガは、ウミンタを「el Pan de los Incas(インカのパン)」と呼びました。インカのパンといえば、サンクというインカの儀式や祭典の際に作られたトウモロコシ製の特別なパンをイメージしますが、おそらくウミンタはもう少し庶民的というか、身近な食料という意味でパンと呼んだんでしょうね。
【¡新食材! 】Choclo(チョクロ)について
今更のご紹介ですが・・・ペルーのトウモロコシについて。
トウモロコシはスペイン語でmaíz(マイス)といいます。一方choclo(チョクロ)とは生の柔らかいトウモロコシを指し、ペルーでは写真のような乳白色で粒の大きなチョクロがクスコのウルバンバを中心に栽培されています。パタスカに使われるマイス・モテはこのチョクロを乾燥させたものですが、柔らかくないからチョクロとは呼ばないんですね。ペルーで初めてチョクロを食べた時は「味がない」と思いましたが、食べ慣れてくるとほんのり自然な甘さを感じるようになりました。
このチョクロをすり潰して作るウミータも、ほんのりとした自然な甘味が特徴。チーズを入れたHumita Salada(ウミータ・サラーダ/しょっぱいウミータ)と、レーズンなどを加えたHumita Dulce(ウミータ・ドゥルセ/甘いウミータ)があり、どちらも人気です。※タマルとの違いは、どうぞこちらをご覧ください!
ウミータ作りに必要なPanca(パンカ)は、買ってきたチョクロの皮を利用してもいいし、八百屋さんでもらうもよし。ペルーの八百屋さんならほぼどこでもパンカを置いており、頼めば気軽にくれます。もしパンカがなかったら、アルミホイルでもクッキングシートでも大丈夫ですよ。
ウミータ・ドゥルセ
【材料】90~100gのウミータ3つ分
- チョクロ 1本(正味200~230g)
- 牛乳 100ml
- 砂糖 大1
- バター 大2
- レーズン 20g
- アニスシード 1~2つまみ
- シナモンパウダー 2~3つまみ
- 塩 1つまみ
- パンカ(チョクロの皮) 6~7枚
- オプション:溶き卵 1/2個分
【作り方】
1、パンカをよく洗って鍋に入れ、熱湯を注いで蓋をし、しばらく置いて柔らかくする。レーズンにも熱湯をかけて柔らかくしておく。
2、包丁などを使ってそぎ落としたチョクロの粒をミキサーに入れ、牛乳と砂糖、溶き卵を加えて滑らかになるまでよく攪拌する。ミキサーが回りにくいようなら、牛乳をもう少し加えてもいい。※溶き卵はオプションです。私は生地をふわっと滑らかにしたかったので入れましたが、入れないレシピもたくさんあるのでお好みで。
3、鍋かフライパンにバターを入れて溶かし、2の生地とアニスシード、シナモンパウダー、塩を加え、よくかき混ぜながら加熱する。全体がもったりしてきたら火を止めて、少し冷ます。冷めると生地が硬くなるので、パンカで包みやすい程度の柔らかさを目指して。
4、1のパンカを取り出し、2枚のパンカの幅の広い方を重ねて、その上に生地の1/3量を乗せ、長方形になるよう成形しながら包む。パンカが7枚以上ある場合、そのうちの1枚を細く裂いて紐代わりにして結ぶといい。なければ普通のタコ紐でもOK。
5、蒸し器に乗せて、30分ほど蒸せばできあがり。出来立ては柔らかいので、崩さないよう取り出して冷まそう。食べる時は常温でも、ほんの少し温めても美味しい。
ウミータ・サラーダ
【材料】90~100gのウミータ3つ分
- チョクロ 1本(正味200~230g)
- 水 100ml
- おろしたモッツァレラチーズ、またはピザ用チーズ 大2
- 1×6~7cm前後の棒状にカットしたチーズ 3本
- タマネギのみじん切り 小1/4
- すりおろしニンニク 小1
- アヒ・アマリージョペースト 小2
- バター 大2
- 塩コショウ 少々
- パンカ(チョクロの皮) 6~7枚
【作り方】
1、パンカをよく洗って鍋に入れ、熱湯を注いで蓋をし、しばらく置いて柔らかくする。
2、包丁などを使ってそぎ落としたチョクロの粒をミキサーに入れ、水を加えて滑らかになるまでよく攪拌する。ミキサーが回りにくいようなら、水をもう少し加えてもいい。
3、鍋かフライパンにバターを入れて溶かし、タマネギとニンニク、アヒ・アマリージョペーストをよく炒める。そこに2の生地とおろしたモッツァレラチーズを入れ、よくかき混ぜながら加熱する。全体がもったりしてきたら塩コショウで味を調えて火を消し、少し冷ます。冷めると生地が硬くなるので、パンカで包みやすい程度の柔らかさを目指して。
4、1のパンカを取り出し、2枚のパンカの幅の広い方を重ねて、その上に生地の1/3量を乗せ、長方形になるよう成形し、棒状のチーズを真ん中に押し込んで包む。パンカが7枚以上ある場合、そのうちの1枚を細く裂いて紐代わりにして結ぶといい。なければ普通のタコ紐でもOK。
5、蒸し器に乗せて、30分ほど蒸せばできあがり。出来立ては柔らかいので、崩さないよう取り出して冷まそう。食べる時は常温でも、ほんの少し温めても美味しい。
【Keikoからひとこと】
メルカドでは1つ2~3ソレス(約80~120円)とお手軽価格のウミータ。具材をあれこれ混ぜてこねくりまわすタマルより簡単だからでしょうか、週末の午前中には手作りウミータを路上で販売する尼さんたちをよく見かけます。そういうのはすごく小さかったり、チーズが入ってなかったりするけれど、さすが年季が入っているというか、しっとり滑らかで美味しいのが多いですね。
ウミータ作りのポイントは新鮮なチョクロを使うことと、できるだけ細かくすりおろすこと。チョクロの粒が残ると仕上がりがもさもさしてしまいます。手順③で加熱して水分量を調整できるので、もしミキサーが十分回らないようなら、水や牛乳の量をもう少し増やしても大丈夫(特に少量で作るとしっかり回らないですし)。
冒頭で『インカの覇権とともにタワンティンスーユ各地に広まった』と記した通り、南米各地に存在するウミータですが、そのすべてがチマキ風であるとは限りません。アルゼンチンにはすりおろしたチョクロやカボチャにチーズをたっぷり加え、鍋で煮込んだウミータ・エン・オーシャ(アルゼンチンのスペイン語はシャシュショ)もあるとか。以前ご紹介したエンパナーダと同じく、同じ名前なのにそれぞれの土地で姿を変えていったラテンアメリカの伝統料理、こういうのって興味が尽きませんね。