Apagón eléctrico 停電によせて

昨日の夜、久しぶりに大きな停電があった。夜9時20分ごろ、食後にYoutubeを見ながらまったり過ごしていたところ、突然の“ピュッ”という小さな音とともにパソコンがブラックアウト。最初に思ったのは、「あぁ、原稿を書いてる途中でなくてよかった」である。

ペルー生活に停電はつきものだが、それでもここ数年で本当に減ってきた。また停電があっても5~10分で回復することも多く、もはや蚊に刺された程度のことである。もちろん仕事中だったり、オーブンを使っている途中だったら慌てるが、それほど困った事態に陥ったことはない。本当にありがたいと思う。

停電がすぐ回復しない時は、ベッドにもぐりこんで周囲の音に耳を澄ませる。街を奔走するセレナスゴ(区の警備員)のサイレンや、隣人たちのワサワサする音に耳を傾けるうちに、ざわついた雰囲気が徐々に静まっていく。ペルー人も慣れたもので、この暗闇がさも常態であるかのように状況を受け入れる。無駄なあがきをせず、電力が回復するまでただ大人しく。そして街は静寂に包まれていく。

実はこの時間が、私は好きだ。経済活動がストップした街は本当に静かで、風の音や夜に鳴く奇妙な鳥の声が聞こえるだけ。真っ暗な中でシャワーを浴びるツワモノもいるが、その水の音さえ清らかに聞こえる。時短とか効率とかちょっとでも早くとか少しでも便利にとか、誰も彼もが何かと生き急いている今の時代にあって、この矯正シャットダウンは神様がくれた束の間の休息時間だ。

そして思う。仕事中でなくてよかった。家族が自宅に揃っている時でよかった。冷蔵庫はちょっと心配だけど、アパートの屋上にタンクがあるから水は使えるし、コンロはプロパンガスだからお湯も沸かせる。ソーラーライトや人感式ライトがあるから、暗い廊下も問題ない。治安面も、外にあれだけセレナスゴがいるのだから、泥棒もさすがにこの辺りは入りづらかろう。何に対してかは不明だが、やっぱりありがたいなぁと思うのだ。

一方で、別の事も考える。POSレジが使えないから、レストランやコンビニは困るだろうな。病院に自家発電はあるのだろうか。エレベーターが動かない高層ビルは大変だろう。電動式のドアは手動じゃないと開かないよね。信号が消えたら事故も起こるだろう。防犯用カメラや電子柵も使えないから治安面も不安だ。やっぱり電気がないと、人は暮らせない。

今朝のニュースによると、昨夜9時20分からの停電で、スルコ区とサンボルハ区の大部分ならびにミラフローレス区とスルキーヨ区の一部であわせて68000世帯が影響を受けたとのこと。スルキーヨ区内のある変電所で放電があり、それによって火災が発生したのだという。

うちのすぐ近くの変電所だったらしいが幸いすぐ鎮火し、停電は徐々に復旧していった。近所の友達は、夜中1時半ごろにプリンターの作動音で気が付いたとのこと。3時半ごろふと目が覚めた私は、冷蔵庫のうなるようなモーター音を耳にして、安心してまた寝てしまった。全世帯が完全に回復したのは今日の午前中だったらしい。さすがに一晩中冷蔵庫が止まっていたら、ちょっと焦っただろうな。

暮らしに大きな影響を与える停電は、ないに越したことはない。それでも、あの静かな時間をやっぱり心地いいと思ってしまう。停電による被害を受けた人も人もいるだろうし、不謹慎かもしれないが、夜の暗さはやはり落ち着く。こんな悠長な事を言っていられるのは、ペルー生活だからだろうか。日本にいたらもっとイライラするのだろうか。