日本とラテンを結ぶ新しい鍼灸の形 鍼灸リトリート Vida Sana

ペルーにおける日系人社会の歴史や、出稼ぎペルー人について多少でも学んだことのある方なら、文教大学国際学部の山脇千賀子教授の名を目にしたことは一度や二度ではないでしょう。あるいは、「ペルーを知るための62章」(明石書店)内で、気づかぬうちに山脇先生執筆の章をご覧になっているかもしれません。

その山脇先生がなんと鍼灸医として2021年に開業!ご連絡を頂いた時はその展開についていけず、正直戸惑ってしまいました(汗)

Vida Sana(ビダ・サナ)は、田島(山脇)千賀子先生が運営する一風変わった鍼灸リトリート。固定の施設は持たず患者宅を訪問、またはレンタルサロンでの開業となっています。チカコ先生の鍼灸学校の同級生であり、よき相棒でもある森山大輔先生とタッグを組み、患者の身体の声を聞き、身体と心のバランスを整えていきます。

鍼灸リトリート Vida Sana(ビダ・サナ)

『病気にならない身体をつくることをヘルスケアの中心とする』をミッションに、『日本とラテンアメリカを結ぶ活動を展開しながら、未来志向のヘルスケアとしての東洋医療をメインストリームにしていく』をビジョンに掲げるVida Sanaのお2人が、ペルーにおける鍼灸治療の現状調査(鍼灸学校訪問など)と、東洋医療ファンを増やすべくリマの知人に鍼灸を体験してもらおうと来秘されました。今回その中の一人に選んで頂くという幸運に恵まれ、体験施術となりました。

Vida Sanaでは主に“刺さない鍼=鍉鍼(ていしん)”での施術が中心で、24金と純銀、ステンレスの3種類の鍼を患者の感度に合わせて用います。24金の鍼を手の甲に軽く刺してもらったところ、その先端の温かいこと!24金は熱伝導率が高いためチカコ先生の体温が伝わったのかもしれませんが、それにしてもほんわかと温かい。これは期待が膨らみます。

24金は人体の波動に同調しやすいのか、敏感過ぎる人の場合、24金の鍼を患部に当てただけで激痛が走るのだとか。ただ24金は効果があってステンレスは効果がないとかはないらしく、それぞれの患者に合わせて選ぶそうです。

日本独自の鍼灸技術である管鍼術(鍼を管に挿入した状態で刺す鍼術)やお灸も使用、なんとアロママッサージまで組み合わせ、あらゆる角度から身体と向き合います。いやー、これが本当に気持ちいい!鍼の刺激でツボがチクチク(時にはイデデッ!)となる一方で、アロマの香りに包まれつつ滑らかなマッサージで夢心地に・・・“飴とムチ”ではないですが、この不思議な感覚は病みつきになりそうです。

Vida Sanaのお灸で使われているもぐさ。もぐさはヨモギの裏にある繊毛を精製したものです。お2人が学ばれた東京衛生学園では入学年に精製されたヨモギを3年間寝かせるというシステム。希望者は国家試験に合格し晴れて鍼灸医となった卒業の記念に購入できるのだとか。3年越しの貴重なもぐさ。素人目にもその品質の高さが見て取れます。

施術の様子は、ぜひこちらのYoutubeをご覧ください!私は体験だったので鍼は刺さず、またお灸もしませんでしたが、丁寧な問診と舌の状態、脈拍のチェック、お腹の音の確認後に施術を開始するなど基本の流れは同じです。

人間、この年になると身体のどこかに何かと不調を抱えていることが多いですよね。でも病院にいってもいつも言われるのは「どこも悪いところはありません」。そう、本人は胃が痛かったり肩がこって動かしにくかったりするのに、西洋医学ではその原因を突き止めることができないのです。結局いつも同じ胃薬を処方され、シップを貼れという同じことの繰り返し。

また「3時間待ちの3分診療」と揶揄される一般の病院(もちろんそうでない病院もあります)とは違い、施術中はしゃべる、しゃべる!(笑)。身体の声を聞きながらバランスを整え、個人がもつ自然治癒力を高めていく鍼灸治療では、こちらが「そこはちょっと痛いです」「そこは感じません」「うわっ!痛っ!」という声はとても大事。両先生その原因をきちんと説明してくれるので安心感があるし、自分自身も身体の声に耳を傾けるいい機会になりました。

そうそう、Youtubeの5分23秒や6分50秒付近もぜひチェックしてください!足元で森山先生がアロマオイルを使ってマッサージしてくれているのが分かりますか?マッサージだけでなく、それぞれのツボへのてい鍼も合わせて行うのですが、術後の足のむくみの取れ具合いがすごかったです。本当に優しく触っているだけだったのに、こんなにふくらはぎの太さが変わるなんて!自分でも毎晩寝る前に足のマッサージをしていますが、こんな短時間でこれほど変化を出すなんて絶対無理。さすが鍼灸医さん、感動です。

術後の変化としては足のむくみが取れたほか、舌の裏の静脈の腫れも引いていました。最初に舌裏をチェックした時は、あんなに静脈が青くくっきりと浮き出ていたのに!舌の表面の白い苔も薄くなっていてびっくりです。あと軽い五十肩で「ゆっくり動かさないとヤバいかも」という感じだった左腕の可動域が少し広がりました。そして術後最初のトイレでは驚くほどの排尿がありました。

チカコ先生のお話によると、リマの日秘総合診療所で2018年から鍼灸師が雇われたのだそう。ただ鍼灸治療という位置づけではなく、どうも整形外科から送られてくる患者のリハビリ目的にとどまっている様子。確かに鍼治療とリハビリは相性がいいですが、それだけではもったいない!アポを取られているとのことなので、そこから日本とラテンを結ぶきっかけが生まれるといいですね。

中国から伝来し日本で独自の進化を遂げた鍼灸は、明治以降西洋医学にその座を奪われてしまいました。鍼灸施術における保険適用の範囲は国が指定する6疾患に限られる上に、どれほど患者が欲しても、医師の同意書がなければ自腹で受けるしかありません。とてもおかしな話ですがこれが日本の現状です。

日本人の鍼灸年間受療率はわずか5.2%(2019年/一般社団法人鍼灸医療普及機構)。しかし欧州では20~30%、ドイツでは40%にも上るそう。WHOも認める日本の伝統医療のメリットを享受できていない日本の方へ、鍼灸の可能性をもっと知ってもらいたい。ラテンに鍼灸の魅力を伝えつつ、再輸入の形で日本人にももっと広めたい。お2人の野望はとどまる所を知りません。鍼灸リトリート Vida Sana、興味を持った方はぜひウェブサイトをご覧くださいね。