Picante de Cochayuyo ピカンテ・デ・コチャユーヨ

ペルーと日本の食文化における興味深い共通点といえば、なんといっても海藻を食べること。5000年前のカラル遺跡からは海藻を消費していた証拠が発見されているほか、ナスカやモチェ文化の土器にも海藻の絵が描かれています。海藻を食べる文化は、日本固有のものではないんですね。

海岸部に栄えた文化だけでなく、アンデスに住まう人々も海藻を食べていました。彼らは内陸部と海岸部を往復する地域間交流を行うことで、多彩な食材を手にしていたのです。

海岸部からもたらされる天日干し、または塩漬けにした海産物の中に含まれていたのが、ケチュア語で “湖の海藻” を意味するcochayuyo(コチャユーヨ、またはyuyo・ユーヨ、yuyo mococho・ユーヨ・モコチョとも)。海藻類に含まれるヨードは、山岳地帯の人々にとってなくてはならない貴重な栄養素でした。インカ帝国をはじめアンデス山岳文明の繁栄を支えたのは、もしかしたらこのコチャユーヨにあったのかもしれませんね。

国民のヨード欠乏症予防のため、ペルーでは塩にヨードを加えたヨード添加塩が売られていますが、インカの都クスコやアレキパの市場には、今でも四角く折りたたんだ乾燥コチャユーヨが売られています。

黒くて四角い塊が乾燥コチャユーヨ。水に戻してから使います
クスコの伝統料理チリウチュにも、コチャユーヨは欠かせません

アンデス地方で売られているコチャユーヨは幅広で薄く透明感があり、日本のウスバアオノリに似ています。一方リマで見かけるコチャユーヨは、主に学名Chondracanthus chamissoi 、和名シキンノリ(紫銀海苔)と呼ばれるスギノリ目スギノリ科の海藻で、食品等の増粘剤の原料となるカラギーナンを多く含むことから、生食ほか中国を始め海外に輸出されています。紫銀海苔、なんともきれいな名前ではないですか。

紅色のシキンノリのほか、グリーンのコチャユーヨもありました

本日は、日本とペルーの縁を感じさせるコチャユーヨを使った料理をご紹介。私は生のものを使いましたが、乾物を使う時は量を調整してくださいね。

【材料】2人分

  • 生のコチャユーヨ 100g(乾燥わかめの場合は8~10g)
  • タマネギのみじんぎり 1/2個
  • ニンニクのすりおろし 大1/2
  • アヒ・アマリージョペースト 大2
  • アヒ・パンカペースト 大1/2
  • ジャガイモ 2個(約300g)
  • ケソ・フレスコ 50g
  • 塩コショウ、クミン、オレガノ 適量
  • 付け合わせ:カンチャ(炒りトウモロコシ)、魚のフライ

【作り方】

1 、コチャユーヨはよく洗って砂や汚れを取り、食べやすい長さにカットしておく(乾燥わかめの場合は、水に戻してからスタート)。

2、ジャガイモを1cm角にカットし、水にさらしておく。

3、アデレソを作る。鍋に油を敷き、タマネギのみじん切りとタマネギの水分を引き出すための塩一つまみを入れてよく炒める。タマネギが透き通ってきたらニンニクを入れてよく炒め、アヒ・アマリージョペーストとアヒ・パンカペーストを加えてさらに炒め合わせる。塩コショウ、クミン、オレガノを加えたらアデレソのできあがり。

4、3に2のジャガイモと、ジャガイモが隠れるくらいの水を加えて加熱する。ジャガイモに8割方火が通ったら1のコチャユーヨを加え、10分ほど煮込む。

5、ジャガイモと海藻に火が通ったらケソ・フレスコを加え、塩コショウで味を調えたらできあがり。カンチャと魚のフライを添えて頂こう。

【Keikoからのひとことアドバイス】

ペルーと日本、あらゆる意味で真逆に思える両国でありながら、『海藻を食べる』という、世界の食文化の中でも稀有な共通点を持つことをどう捉えたらいいのでしょう。海に囲まれた島国育ちならいざ知らず、標高3000mを超える高地に生まれ育った人々がほんのり漂う磯の香りを楽しんでいるって、なんとも不思議ではありませんか?

しかもコチャユーヨとジャガイモの組み合わせは、日本の味噌汁の具材としてもお馴染みのもの。アンデスの人たちも、これらの相性がいいと思っているとは!

この共通の感覚は、欧米やその他の国の人たちにはみられないもの。もちろんガストロノミー全盛の今にあって、一流シェフが創作したフュージョン料理ならあり得るでしょう。でもそうではなく、何百年も前からアンデスの人たちはアヒを、日本人は味噌を加え、2つの素材の美味しさを引き出してきた・・・こういう点が私には面白く、また嬉しくもあったりするのです(アンデスにはジャガイモしかないという意見もありますけどね/笑)。

よりアンデスっぽくするならアヒ・アマリージョよりアヒ・パンカを多めにすべきですが、ピリ辛好きな我が家はアヒ・アマリージョ主体にしています。お子さんがいる場合はアヒ・パンカを多くするか、アヒ全体の量を減らしてください。サルサ・クリオージャではなく、カンチャ(炒りトウモロコシ)を添えるところもアンデス風。ボリュームアップとタンパク質を補うためにカツオのフライを添えましたが、これはマストではありません。

何の変哲もない、地味なペルー料理。でも日本の方にはぜひ味わっていただきたいな。お好きな海藻で作ってみてくださいね。