日本でもすっかりお馴染みになった、ペルー生まれのシーフードマリネ「セビーチェ」。白身魚やマリスコス(タコやイカ、エビ、貝類、ウニなど)のほか、ペルーではカツオやアジ、サバなどの青魚やマグロなどの赤身も好んで使われます。
またノルテ(北部海岸エリア)風やアマゾン風、ニッケイスタイルなんかもありますよ。そういえば、ノルテ料理の名店Fiestaが「温かいセビーチェ」を発表した時は、ペルーのグルメ界に衝撃が走ったもんです。無理にこねくり回したものより、シンプルなスタイルのほうが個人的には好きですが、ペルー人シェフたちには現状に甘んじることなく、常に攻めの一品を創造していってもらいたいですね。
さてそんなペルーの国民的料理から、今回はリマっ子が大好きな“Leche de Tigre(レチェ・デ・ティグレ/タイガーミルク)”をかけた、いわば「つゆだくセビーチェ」をご紹介しましょう。酸っぱくて、しょっぱくて、ぴりっと辛い薄紅色のエキスがたっぷりの、とっても爽快なセビーチェです。
【材料】一皿分
基本のセビーチェ
- 新鮮な魚の柵 約200g
- タマネギの薄切り 1/4個
- レモン果汁(できればメキシカンライム) 大4~5
- アヒ・リモ 1/2個(レチェ・デ・ティグレと共有)
- クラントロ 適量
- アイスキューブ 2個
- 塩、白コショウ 適量
- 付け合わせ:レタス、カモテ(茹でたサツマイモ)、チョクロ(茹でたトウモロコシ)、カンチャ(炒ったトウモロコシ)、アヒ・リモ
レチェ・デ・ティグレ 約130ml分
- セビーチェに使った魚の切れ端 1~2片(20g)
- タマネギ 10g
- セロリ 10g
- ニンニク 小1/2個
- ショウガ ニンニクと同量
- フィッシュブイヨン 大6
- レモン果汁(できればメキシカンライム) 大3
- アヒ・リモのみじん切り 少々(セビーチェの分から少し拝借)
- 塩、白コショウ、クラントロ 適量
¡新食材! Ají Limo(アヒ・リモ)について
ペルー海岸エリアで栽培される長さ4~5cmほどのトウガラシ。アヒ・アマリージョより辛く、でもロコトのような独特の癖がない、ストレートな辛さが持ち味です。生魚の臭いを消してくれるだけでなく、味をピリッと引き締めてくれるのでセビーチェの時はぜひ!日本でも冷凍品が販売されていますが、新橋にある人気ペルー料理店「荒井商店」の荒井隆宏鷹シェフの本『ちょいラテンごはん』には、なんと鷹の爪を水で戻したもので代用できるとありました。さすが荒井シェフ、詳しくは本書をご覧くださいね。
【作り方】
1、セビーチェの下準備をする。柵にウロコや骨が残っていないかをチェックし、キッチンペーパーで水分をよく拭きとってからラップをして冷蔵庫で保存する。
2、タマネギは繊維に沿って薄切りにし、ばらしておく。辛味が強いようならさっと水に晒してもいいが、シャキシャキ感が命なので水気はしっかり切っておくこと。アヒ・リモは飾り用に輪切りを2~3枚カットし、残りはみじん切りにしておく(一部はレチェ・デ・ティグレに使う)。付け合わせの野菜を準備しておく。使用する皿も冷やしておくとベスト。
3、レチェ・デ・ティグレを作る。レチェ・デ・ティグレの材料をミキサーに入れて混ぜ合わせ、ザルで漉したらレチェ・デ・ティグレのできあがり。
4、1の魚を冷蔵庫から出し、2~2.5cm角にカットする。ボウルに入れて塩を振り、一度よく混ぜる(魚にしっかり塩味をつけるつもりで)。その後タマネギやアヒ・リモのみじん切り、クラントロとレモン果汁を加え、アイスキューブも入れてよく混ぜる。アイスキューブを入れるのは魚の温度を上げないためと、レモンの酸味をほんの少し和らげるためなので、手早く作業し、氷が溶けきる前に取り除くこと。最後に塩コショウで味を調えたら、セビーチェのできあがり。
5、冷やしておいた皿にレタスや茹でたサツマイモ、トウモロコシを添え、セビーチェとレチェ・デ・ティグレを盛り付けて完成。さぁ、つゆだくで頂こう!
【Keikoのひとことアドバイス】
ペルーのセビチェリア(シーフード専門店)には大抵セビーチェ専門の料理人がいて、一日中セビーチェだけを作っています。彼らの動作に無駄な動きは一切なく、一定のリズムを刻みながら黙々とセビーチェを作るんです。そんなセビーチェ専門料理人に共通するのが、レモン(メキシカンライム)の絞り方です。
1つのレモンから少しでも多くの果汁を絞りだそうとすると、どうしても力が入ってしまうため種や皮から苦味が出てしまいます。ペルーのセビーチェにその苦味はご法度。そのため彼らはレモンの果肉部分だけを軽くチュッと潰したら、躊躇なくすぐ次のレモンに取り換えます。なんて贅沢なレモンの使い方!でもだからこそ、ペルーのセビーチェは美味しいんですね。
本日のメニューのもう一つの主役であるレチェ・デ・ティグレについてもお話しましょう。レチェ・デ・ティグレはもともとはセビーチェを作った時にできる副産物でした。魚介とタマネギ、トウガラシをレモン汁と塩でマリネすると、それぞれの素材から得も言われぬ旨みが沁みだしてきます。二日酔いの朝にこの乳白色のエキスを飲むと頭がスキッとするし、どうやらあっちのほうも冴えるらしい・・・そんな噂がウワサを呼び、いつしかレチェ・デ・ティグレ(タイガーミルク)と呼ばれるようになったのだとか。
「週末のパーティーで一晩中飲み明かし、頭痛と吐き気で地獄の朝を迎えた奴が、このレチェ・デ・ティグレを飲んだ途端びっくりするくらいシャキッとしやがった」なんて話から、“levanta muertos(レバンタ・ムエルトス:あまりの美味しさに死者さえ起き上がるという意味)”という名誉ある称号まで与えらえています。まったくラティーノスってのはどこまでも大げさですねぇ(笑)
シンプルな料理だけに、もたもたしているとすべてが台無し。食材はすべてあらかじめそろえておいて、食べる直前にちゃちゃっと仕上げてください。あともし尾頭付きの魚で作った時は、ペルー風潮汁『Chilicano(チルカーノ)』も忘れずに作ってくださいね。