昨年は、ペルーで活躍する日本人に会う機会が幾度となくあった。マリネラ・ノルテーニャ(※)の世界で知らぬ者はいないほど有名なダンサー。独学で極めた彫刻で、いくつもの賞を獲得している芸術家。単身リマへとやって来て、当地の日系社会でボランティアを始めた僧侶。彼らに共通しているのは、人生の折り返し点といわれる年齢を過ぎてから、新しい世界に飛び込んだということだ。
何か新しいことを始めようとした時に、年齢が妨げとなることはもちろんあるだろう。一方で、本当は歳など関係ないのに「もう若くないからできないよ」「経験がないから、この歳からじゃもう無理だわ」と、最初からあきらめてしまう人も少なくない。
肉体的・体力的に無理なことはしかたがないが、多くの場合、人は己の凡庸さや精神的怠慢を正当化するため自らの年齢をいいわけにする。私自身、そう言って先延ばしにしたことはいくらでもある。しかし彼らの話を聞くたび、それがいかに情けないことなのか思い知らされるのだ。
45日間の特訓ののち、初めてペルー最大のマリネラ・コンクールに出場した男性は、なんと当時68歳だった。スペイン語が苦手だったある女性が、師の説く精神世界を理解するため語学を猛勉強し始めたのは、子育てがひと段落した40代後半からだった。そのパワーたるや凄まじく、聞いているだけで思わず鳥肌が立ってしまうほど。それなのに、自分はどうだ?まだ彼らより若いというのに、なんという体たらく!
一昨年は、ペルーに暮らす日系人を移民史に絡めて紹介した。一方、今回の主人公たちは、「歴史上の人物」ではなく現在進行形だ。何かを始めるのに、遅すぎるということはない。歳を取ることは可能性を失うことではない。彼らの眼差しはそう教えてくれる。
「もう年だから」ではなく、「さあこれからだ!」が口癖になりますように。そんな気持ちで、ペルーに暮らす先輩移住者たちの魅力に迫ってみたい。
※マリネラ(Marinera):男女がペアとなって踊るペルーの国民的伝統舞踏。国の無形文化遺産にも登録されている。中でもペルー北海岸部で盛んなマリネラ・ノルテーニャは、その優雅で華やかなスタイルゆえに全国で人気がある。
※この投稿は、海外在住メディア広場のコラム「地球はとっても丸い」に2015年1月17日付で掲載された記事を再構成したものです。文中の日時や登場人物等が現在とは異なる場合がありますのでご了承下さい。