「オベントひとつ、18ソレスね!」「このお餅も美味しいよ。ジェバロ!(持っていって!)」「クチャラ(スプーン)はどこ? クチャラ! 」「グラシアス! はい、ありがとねぇ」 スペイン語と日本語がごちゃ混ぜになった不思議な会話。気が付けば自分もこんなしゃべり方になっていて、思わず笑ってしまった。
今年もペルー日系人協会主催の「日本文化週間」が華やかに幕を開けた。ペルーは南米で初めて日本からの移民を迎えた国だけにこの催しの歴史は古く、今年で40回目となる。お茶や武道のセレモニーに加え、日本映画や音楽(最近ではアニメ関連が多いが)などが数日にわたって紹介されるが、中でもとりわけ人気を博しているのが「Festival Gastronómico Japonés(ニッポングルメ祭り)」だ。在秘各県人会が腕によりをかけて作った弁当や総菜、和菓子がずらりと屋台に並ぶ。漬物や納豆など日頃手に入りにくい商品もあり、リマに暮らす日本人にとってはありがたいイベントだ。
日本伝統の食べ物だけではない。例えば「ユカ餅」は沖縄移民がペルーで考案したデザートだ。餅とプリンを合わせたようなこの菓子は、ユカ芋(キャッサバ)のデンプンを利用して作ったもの。そのもちもちとした食感は、沖縄移民一世たちにとってまさに故郷の味だった。今でも日系人が経営する食堂のメニューには、ペルースイーツと並んでユカ餅の名が書かれていたりする。
ところで、ニッポングルメ祭りを心待ちにしているのはなにも日系人や日本人在住者だけではない。これまでこのシリーズをご覧いただいた方ならもうおわかりだろう。そう、美味しいものが大好きな食いしん坊ペルー人たちの登場だ。
ペルーでは未だ地理的に日本と他の東アジア諸国の区別がつかない人が多いが、それでも「Comida japonesa (日本料理)」の美味しさだけはよく知られている。和食をペルー風にアレンジした日系料理はここ数年のグルメブームに支えられ、今や「Sushi(にぎり寿司)」や「Maki (巻き寿司)」の名を知らぬペルー人はいない。食に関して保守的な国は少なくないが、ペルー人は新しい味覚に対してとても積極的。「毎年このタコ焼きが楽しみ」という若者や、「初めて参加した」と言う割には器用に箸を使ってうどんを食べるご夫婦も。大鍋に入ったアツアツの和風カレーを見て、「これは何かしら? なんだか分からないけど、香りはいいわね」と果敢にチャレンジするご婦人もいた。
皆の胃袋に直接語りかけるグルメ・フェスティバルは、言葉や人種の壁を簡単に取り払ってくれるまさに最良の異文化交流術だ。ペルーをもっとよく知るために、これからもこうしたイベントにどんどん参加していこう。互いの理解をより深めるために、そして美味しいものを口いっぱいに頬張った時の、ペルー人のあの笑顔を見るために。
- 日本文化週間:日本の文化の日(11月3日)前後に開催される、ペルー日系人社会最大のイベント。さまざまな文化交流の他、最終日にはラ・ウニオン運動場(日系関連のスポーツ施設)で「Matsuri (祭り)」が開かれ、御輿や花火でクライマックスを迎える。
6回にわたってご紹介してきた「ペルーグルメ 食い倒れ日記」、いかがでしたでしょうか。拙筆にお付き合い下さった方々には、この場をお借りして心から御礼申し上げます。ペルーの食文化を通じ、この国の魅力をほんの少しでも感じて頂けたなら幸いです。
※この投稿は、海外在住メディア広場のコラム「地球はとっても丸い」に2012年11月15日付で掲載された記事を再構成したものです。文中の日時や登場人物等が現在とは異なる場合がありますのでご了承下さい。