先日ご紹介した、シカン遺跡新発見のニュース。当地の有力紙にも多数取り上げられ、これは素晴らしい!とそれらを参考にブログを書いたら、「実はあれ、間違いがいっぱいあるんです」と松本准教授に言われて大慌て。正しい日本語ニュースをお伝えせねばということで、先生に確認しつつもう一度ご紹介させて頂きます。
松本准教授率いるチームは、Huaca LoroとHuaca Las Ventanasの間に広がる「Gran Plaza(大広場)」と呼ばれるエリアの中で3か所(発掘区1~3)の発掘調査を行い、そのうち2か所(2および3)から素晴らしい発見をしました。後にも出てきますが、今回の発掘はその標高(深さ)が大きく異なるにもかかわらず、どちらも中期シカン(約950~1100年)に関連しています。
発掘区2では、地下5mのくぼみから9体分の遺体を発見しました。骨と歯の分析から25~30歳であろうと推測されるこの男性たちには副葬品もなく、特別な処理もされずに埋葬されていた上に、埋葬前に肢体を切断された者や、埋葬後に遺体を荒らされたような状態の者もいるとか。「これらの男性は、何かしらの儀式中に生贄として捧げられたのだろう」と松本先生。犠牲者の命が尽きる瞬間がどんな様子だったかは分かりませんが、さぞやおどろおどろしい儀式だったでしょうねぇ。刻んだりかき回された上にみんなまとめてポイ、ですから・・・。うーむ、壮絶です。
発掘区3からは、独立した墓が発掘されました。地下1.5mの、おそらく冶金工房と思われる場所にあった墓の主も25~30歳の男性で、伸展位で頭部が南を向くように埋葬されています。副葬品としてナリゲラ(鼻飾り)やトゥミ(右手に置かれていた)などの金属製品、24個もの葬儀用の壺も出土。この墓の主と前述の9体の遺体はどちらも中期シカンのもの、なのになぜ一方は墓の主より3.5mも深いところにあったのか。そんな深くまで大地を掘った理由、掘らなければならなかった理由が気になるところです。
ちなみになぜ5mまで掘り進んだのかを伺ったところ、「昨年の試掘で、4mまで掘って何も出てこなかったけど、その下には明らかに遺物の層があることは確認していた」のだそう。また「居住面の異常な傾斜から、広場中央に窪地があるだろうこともわかってた」のだとか。「雨や洪水があればたくさん水が溜まっただろうから、水に関連する儀礼の跡などが見つかると面白いなと期待していた」ところ、今回の思わぬ発見につながったと。考古学はまさに積み重ねの学問なんですねぇ。
さて、今回の発掘では「大変興味深い発見がありました」と先生。第一にこの遺体の姿勢と埋葬の向きは、シカンの前身であるモチェ文化固有の葬儀様式であること。シカン貴族による支配下でも、モチェの文化的アイデンティティーは認められていたようです。モチェからシカンに移った初期(前期シカン/750年~)ならまだしも、中期シカンに移行してもまだ守り続けられた習慣。当時の人々にとって、どんな意味があったのでしょうか。
また第二に、その葬儀用の壺の多さも注目に値します。24個のうち11個がHuaco Rey」と呼ばれるシカン王の顔を配した壺でしたが、松本先生曰く、1つの墓からこれほどまとまった数のhuaco reyが出た例はないのだとか。墓の位置が冶金工房の中にあったことから、恐らくこの墓の主はシカンのエリートのために働いた鍛冶師で、その働きにより彼の死後にこうした丁寧な埋葬法が取られたのではということです。
重要な人物や体制に貢献した者は手厚く葬る一方で、生贄への対応は苛烈で、個の尊厳など微塵もない。現代人にはそんな風に映る事象も、当時の価値観や優先順位に照らし合わせると全く違う世界になる。それらを想像ではなく、事実を元に1つ1つ検証し明らかにしていく考古学って本当にすごい。再発掘は再来年の1~2月の予定。次回もまた素晴らしい発見がありますように!