その男、ラウル。とりあえず今回が最終回だ。そのうち新しいシリーズが始まるかもしれないが、それは即ち我が家のトラブルが解決していないというわけで・・・うぅ、考えたくない。
話は水漏れ事件に戻る。壁を両側から掘り進んだ結果、やっと配管のつなぎ目部分が出てきた。接手を使用せず、上下の管を無理やり突っ込んでいる。その時に下の配管を固い工具で無理やり広げたのだろう、一部が片口(口縁に注ぎ口が付いた器)のように前に飛び出していた。そこから水が漏れていたようである。
素晴らしきかなペルーの建築技術。日本の小学生でもこんなバカなことはしないだろう。本当にお前らはバカだな。くそっ。
工具の先でぐりぐりと穴の様子を探っていたラウル。どうするのかと思っていたら、なんとその片口部分を金槌でがんがん叩きだした。「内側に入れ、入れ、入るはず!」ぎゃー!それじゃ配管自体が割れちゃうよー!
諦めたラウルは、新聞に火をつけ、それを壁穴に突っ込んで配管を温め始めた。煙とともに立ち上がる黒い煤が、壁を焦がしていく。どうしてこう、周囲に無駄な影響を与えていくのか。なぜ修理しに来ているのに、その他の部分を傷つけるのか。ペルー人ガスフィテロの、大いなる謎の1つである。
しかし、飛び出た片口部分を平らにすることはできず、水漏れも止められなかった。そこで、どこかから持ってきたプラスチック片で片口をふさぎ、その周囲を超強力接着剤で塗り固めるというなんとも大雑把な手法に出た。そりゃないでしょ、と思って他の方法を薦めたが、猪突猛進な男ゆえ一度決めたらまっしぐら。「大丈夫だ!」というが早いか、ベタベタと接着剤を塗り始めた。あー、そうですか、はいはい、もうそれでいいですよー。
ところがこの超強力接着剤から揮発したガソリン臭のせいで、私は突発性シックハウス症候群(もどき)に。その後一週間以上くしゃみ・鼻水と闘うはめになった。でもラウルはまったく平気なのだから、もはや同じヒト科動物とは思えない。しかも「この接着剤を置いていくから、今夜も何度か塗ってくれ!」と。だから鼻水が止まらないんだってば!
この配管とは別の場所だが、うちには撤去したい磨りガラス製の窓があった。ところが鉄の杭でしっかり固定されており、どうしても外せない。以前うちに来たGasfitero Aは、電ノコじゃないと切れないと言った。そしてヤツが来ないため、ずっとそのままになっていた。
「でさー、これを外したいんだけど機械がいるんだってー」と何気なく話したら、ラウルは突然自分が持っていた糸鋸で一心不乱に杭を切り始めた。「切れろ、切れろ、切れるはず!」いやいや、電ノコが必要だって言ってるのに。でも彼は顔を真っ赤にしながら「切れるはずー!」もういいよー、あんたの血管が切れるよー
虚仮(こけ)の信念岩をも通す。なんと直径1㎝もある鉄の杭を、よれよれの糸鋸1本で切ってしまった。自分の仕事にとても満足そうなラウルは、「切った!20ソレス!(≒600円)」と手を出してきた。ラウルよ、仕事を正式に依頼してない私がいうのもなんだが、それは安すぎないだろうか?
結局、あの接着剤では完全に水漏れを防げなかったらしく、また壁がモロモロになってしまった。ラウルに言ったら「新しく詰めたコンクリートの湿気が残っていたのかもしれないから、しばらく様子を見たほうがいい」とのこと。Salitreくらい私でも修繕できるし、もう考えるのも疲れた。なのでしばらく放置しよう。ここはペルー、結果を急いでも仕方がない。
その男、ラウル。修理テクニックはちょっとお粗末だったが、家の造り自体がお粗末なのだから、これで十分だ。何よりあの真っすぐさがいいじゃないか。電話に出ないヤツとか、来るといって来ないヤツが多い中で、ちゃんと来るだけでもめっけもんだ。本当はもう会いたくないが、ペルーに暮らす限りまたお願いすることもあるだろう。変な薬に頼らず、いつまでも元気でいてほしい。
このシリーズ、とても面白かったです。また、ラウルネタをお願いします。
渡辺さま コメントありがとうございます。
私自身もラウルの人柄には、随分癒されました。でも「また」となると、それは我が家のトラブル再発を意味するので、できる限り避けたいなぁと(苦笑)。