角が90度でないことについて

キッチンの天板に使った花崗岩の板が余っていたので、家具の上に置けるよう加工してもらうことにした。行先は近所のイタリア人経営の石材店。47×41.5㎝という微妙なサイズだが、「俺たちはプロだ。問題ない」というので任せてみた。でもやっぱりダメだった。

石板の受け取り日。うちを出た後にメジャーを忘れたことを思い出したが、店にあるだろうと思ってそのまま向かってしまった。ところがイタリア人オーナー(以下:イタ男)は外出中。留守を預かるおじさんはメジャーを持っておらず、その場でサイズを測ることができなかった。ここで近隣の店にお願いしてでもメジャーを探せばよかったのだが、なんせ店が埃っぽい。少しでも早く出たくて、そのまま持ち帰ってしまった。

嫌な予感は的中するもの。自宅で測ったら石板のサイズは47×42cmだった。三方を壁に囲まれた、いわゆるコの字型の場所にぴったり収まるよう採寸したため、奥行はまだしも、幅の違いは致命的。慌ててイタ男に電話するも、「今外出先だから、また後で」と切られる始末。都合の悪い電話を一方的に切るのはペルーの習慣だと思っていたが、イタリアでもそうらしい。

あぁ、あの時なんでメジャーを忘れたんだろう。なんで隣の店に借りに行かなかったんだろう!客は悪くないはずのに、なんでこんなに後悔せにゃならんのだ。しかしここはペルー。ひたすら自己防衛するしかない。

午後にもう一度電話をしたら、今度はちゃんと応答した。「まだ外出先だが、あんたが来る時間に店に戻るよ。何時に来る?」と。「2時くらい」と答えたら、「2時ね、OK、絶対2時に来てくれよ。じゃないとこっちが困るから」とのたまうではないか。バカヤロー!お前に“絶対”とか言われる筋合いはねー!

近所とはいえ、10キロ以上ある石板を運ぶのは重労働だ。往復の時間も無駄だし、タクシー代だってかかる。それでも真面目な日本人の私は、2時ぴったりに到着した。店の前ではイタ男と彼の部下(部下もイタリア人)が仁王立ちで待っていた。ここで「あら、良い人たちじゃん」と思った私が甘い。甘々すぎて情けない。

サイズミスの原因は、部下が使っていた安物メジャーのせいだった。メジャーの端に余計な摘みが付いており、その部分を含めて測ってしまったらしい。そんなことで今までよくやってこれたものだと思ったら、その部下はペルーに来てまだ4ヶ月の新人だという(イタ男は在秘25年)。それを知った時点で、素人の練習台にされた事実をもっと考慮すべきだったのに・・・。だからなんで私が後悔せにゃならんのだ。

イタ男はその場ですぐ削りなおすよう部下に命じ、「ここは埃が凄いから」とオフィスに案内してくれた。オフィスのガラス窓越しに作業場を覗くと、驚いたことにあの部下はマスクを着用せずに電ノコで石板を研磨してる。「なんで彼はマスクを使わないの?」「俺は使うよ」「彼はこの埃が身体に悪いって知らないの?」「へへへ」かわいそうに、労災なんて絶対認めないんだろうな。

出来上がった石板を、3人で改めて採寸。はい、41.5cm、完璧!今回のタクシー代を請求しようかと思ったが、あれだけ粉塵を吸いながら頑張ってくれたんだと思うと、「ま、いっか」とつい思ってしまった。ペルー暮らしを重ねるにつけ、“満足感知レベル”がどんどん低くなっている私。奴らが悪いのになぜか「ありがとう」と言ってしまうし。あー、情けない。

自宅に戻って、ドキドキしながらその隙間にそーっと石板を挟み込んでみた。今度はぴったり!よかった~!でも奥の壁にはぴったりつかないみたいなんだけど、なんで?

角が90度でないまぬけな石板・・・なんと。石板の角が90度ではなかったのだ。床のタイルの目地に合わせてみて一目瞭然、そして唖然。「石を四角く切って」という依頼なのに角が90度じゃないなんて、誰が想像しえただろう?ペルーの石材店は客がメジャーだけでなく、分度器まで持参せにゃならんのか?もしくは型紙を持参して、それに合うよう指導すべきだったのか?

もちろんまた店に持っていけば、削ってくれるだろう。でもアパートの門番くんに石板を持って下りてもらい、タクシーが拾える場所まで必死で運び、そしてまたあの埃だらけの場所で削ってもらうのかと思うと、気持ちが萎えてしまう。“満足感知レベル”は低いのに、“ダメなことを容認するレベル”は上昇する一方だ。

オフィスで粉塵を吸ってしまったのだろう、2~3日たってもまだ肺が痛い。そう考えたら、奴らは命がけで仕事してるんだな。命をかけた仕上がりがこのレベルという事実に一抹の寂しさを覚えるが、それもまあ仕方なし。友達に愚痴ったら「がんばれ!水前寺清子の歌を思い出して、3歩進んで2歩半くらい下がって・・・」と励ましてくれた。私的にはもうすっかりテレサ・テンだったのだが。流れに身を任せればストレスもなし。それだけペルーに適応してきたということだろうけど、人としてはダメになってる気がする。