ペルー暮らしの大先輩Oさんにお声掛け頂き、ケイコ・フジモリ(以下K)の政治集会に行ってきた。3月18日にカンポ・デ・マルテで行われた「平和と希望の大コンサート」だ。
実はこのつい2日ほど前、タクナで行われたKの集会に反対派が乱入、暴力沙汰になっていた。その前には、クスコの反フジモリ派がKのポスターや旗を焼いた。そうした光景をテレビで何度か見たが、とにかく今年の反フジモリ派の動きは常軌を逸している。熱狂的な支持者と執拗な反勢力。これだけ賛否が分かれた候補者は彼女だけだ。フジモリの功罪は計り知れず、その恩恵と呪縛から逃れられないKを、正直気の毒に思う。
我々は19時過ぎに現地到着。機動隊、騎馬隊、バイク部隊と物々しい警備体制ではあったが、心配した反対派の乱入はなく、会場は「愛と平和の煩い楽しいコンサート」といった風情だった。ただ報道カメラの多さからも、関心の高さを窺い知ることができた。OさんはKの広報責任者との接触に成功、Kの登場予定は19時半との情報を入手。彼女へのインタビューは不可だったが、なんと会場の一番前に潜り込ませてもらうことができた。
会場では、白とオレンジの風船を手にした熱狂的な支持者たちがステージを取り囲み、コンサートを楽しんでいた。そのほとんどがリマ郊外から集まって来た50~60代のオバチャンたちだ。「年甲斐もなく」なんて言葉は存在しないこの国では、どのオバチャンも腹や尻の肉をゆすりながら、好き勝手に踊りまくる。
ただ普通のコンサートと違うところは、彼女たちがK、もしくはフジモリに心酔する一種の信者たちであることだ。額に「K」のシールを貼り、斜め45度を見上げたまま爆音に酔いしれる姿は正直怖い。そんな彼女らを、司会者が言葉巧みに誘導していく。「ケイコー!」「プレジデンター!」「フエルサー!」「ポプラール!」意味を考えることなく、ただひたすら条件反射的に叫ぶ人たち。これを狂気と言わずして何といおうか。
予定時間を過ぎてもKは登場せず、延々とコンサートが行われた。スピーカーからの爆音と波動をもろに受ける場所にいたため、正直辛かった。これは参加者の脳細胞を破壊し、思考回路を奪い、洗脳するための手段としか思えない。
21時半。会場が最高の盛り上がりを見せる中で、さっそうと登場したK。若干40歳というが、「政治活動歴20年」というだけあって堂々としたものだ。スピーチは至極簡潔で、大変分かりやすかった。まあ、あの状態で具体的な政策を話しても、誰も理解できなかっただろうが。人々は彼女の言葉にのみ耳を傾け、その一挙手一投足に興奮する。これがペルーの政治集会かと身震いした。大統領の権力はまさに神の力。オバチャンたちにはKが自分を天国へと導いてくれる、まさに生き神さまのごとく見えているに違いない。
最後にKは夫と子供たちをステージに呼び、共に支持者に手を振った。「家族」や「子供」を政治利用するのも、ペルーらしいことだ。家族の存在をないがしろにする日本より、私はいいと思うが。
興奮冷めやらぬ会場を後に、なんとかタクシーを捕まえ家路についた。カンポ・デ・マルテ周辺の道路には、車体に横断幕を貼ったローカルバスやワゴンやらが多数並んでいた。彼らの思いは成就するだろうか。Kとその弟は選挙違反の疑いから今、出馬の可否が審議されている。