日系人墓地を巡るお墓参りツアーに参加してきた。日本から来られた曹洞宗のお坊さん二人と、彼らの友人であり支持者である在住者二人、そこに私がお邪魔した形だ。
お坊さんの一人は、「ペルー新報」元日本語版編集長の太田宏人さん。ペルーの日系社会に人生を賭している人。僧侶だけど、本業はライター。子供たちを愛する良きパパさんでもある。
今回訪問したのはチャンカイ(ワラル)、ワチョ、サン・ニコラス、パラモンガの日系人墓地と、バランカのサン・イルデフォンソ公営墓地に眠るある日系人のお墓の5か所。それぞれの場所で献花、読経、お焼香をし、先没者供養をした。チャンカイでは曇天だった空もサン・ニコラスに到着したころには晴れだし、穏やかな陽射しの中でのお参りとなった。
ツアー最終訪問地、パラモンガ墓地。湿気で一部崩れた慰霊塔と、粗末な石塔が120塔ほど並んでいる。最近参拝者が訪れた形跡はなく、他の墓地と比べ無機的な印象が拭えない。この辺りは貧困地区らしく、インバシオン(不法占拠)の家々が敷地のすぐ目の前まで迫っていた。墓地を取り囲む高い壁と鉄門が彼らの侵入を阻んではいるが、彼らがその気になればいつでも踏み込むことができるだろう。埃っぽく、猥雑な町並み。ガツガツとしたエネルギーを感じる。生と死、静と動の対比が面白かった。
お焼香が終わった後、太田さんが地元の母親たちにもお焼香を勧めた。彼は半年ほど前にもここを訪れているらしく、彼女らはその時の法要にも参加していたのだろう。物怖じすることなく、子供と一緒に抹香に手を伸ばしていた。ある母親が「これは何の意味があるのか」と尋ねてきた。「カトリックのロウソクと一緒だよ。でもこれはいい香りがするの。その香りを嗅ぎながら祈るんだよ」。私のつたない説明に、黙って慰霊塔を見上げる彼女。彼女は手を合わすことも十字を切ることもなかったが、なんとなく分かってくれたのだろうか。というか、こんな説明でよかったのか?お坊さん、適当でごめんなさい。
ふと見ると、子供が見事な鼻水を垂らしていた。そばにいた母親が指で器用に鼻水を拭ってやる。「この子、風邪をひいてるの?薬は?」と尋ねたら、笑ながら「No hay money!(カネがないんだよ!)」と言われてしまった。「父親がいないのさ」「だからカネがないんだよ」「ねぇ、この中で独身男は誰だい?」ペルーのシングルマザーは逞しい。「今日は独身者はいないよ」と言ったら、太田さんに向かって「嘘つき~!」「独身男がいるって言ったじゃないか~!」と叫んでいた。夫と別れた。夫が死んだ。夫がシャブ中。夫が刑務所に入っている。そもそも夫などいない。誰の子だったかも覚えていない。それが日常なペルーの貧困地区。そんな中でしたたかに生きる母親たちがこの墓地の鍵を預かってくれているのかと思うと、不思議な気がした。
今年は南米仏教開教110周年に当たり、ここ数日さまざまな式典や法要が行われている。今日も50人を超す僧侶たちが、日系人の聖地カニエテの曹洞宗慈恩寺で大法要を営む予定だ。リマはここ数日珍しく晴れている。カニエテもきっとよいお天気だろう。
※「曹洞宗慈恩寺」は南米最古の仏教寺院