ペルーという単語を耳にすると、多くの日本人はマチュピチュやティティカカ湖を始めとするアンデスの風景が脳裏に浮かぶだろう。そのイメージには、鮮やかな民族衣装を纏いリャマと共に歩く女性や、チューヨ(耳あての付いた毛糸の帽子)を被りケーナを吹く男性が趣を添えているかも知れない。しかしてその風貌は一様に浅黒く、そしてどこか我々に似た親しみのある顔つきで微笑んでいるに違いない。
日本人が想い描くペルー人のステレオタイプには、異国情緒のみをひたすら強調し数字を得ようとしてきたマスメディアの影響が大きい。かくいう筆者の肉親でさえ、首都リマがアンデス高地にあるとつい最近まで誤解していたくらいだ。
彼らの功罪はさておき、そんな「刷り込み済み」の日本人観光客がリマを訪れたなら、夢で幾度となく見た光景とのギャップに驚くかも知れない。雑踏を歩くと、周囲が皆一様に彫の深い顔立ちをしていることに気付くだろう。リマでは金髪碧眼の女性を見かけるのもさして珍し いことではない。
アルパカを連れた三つ編みの女性をリマで探すのは困難を極めるだろうが、互いの活動テリトリーが異なるというだけではなく、アンデス高地と首都リマそれぞれの住民の持つ遺伝子は元来違うグループに属しているらしい。
人類のDNA情報からは祖先にあたる人種との混血割合が分るというが、これに着目したナショナル・ジオグラフィックが、同誌のプロジェクト「Who am I ? / 私は誰?」の中で両地域の住民の「血筋」を比較しているのが興味深い。
このプロジェクトは、世界43地域に住む人々のDNAを6代前まで遡って分析し、各地域における9系統の祖先(北東アジア・南西アジア・東南アジア・地中海・太洋州・南アフリカ・サブサハラ・アメリカ先住民・北欧系)の平均混成比率を示したもの。これによると、リマ市民の平均的DNAは地中海系15%、南西アジア系3%、アメリカ先住民系68%、北欧系10%、サブサハラ系2%、その他2%で構成されているという。
リマっ子が持つヨーロッパ系DNAは500年前のスペイン征服以降進んだ混血によるもので、南西アジア系DNAは4万年以上前にヨーロッパへと移り住んだ移民の名残、またサブサハラ系は16~19世紀における黒人奴隷との混血によるものと同誌は分析している。
一方、アンデス高地住民の平均的DNA構成は、地中海系2%、アメリカ先住民系95%、北欧系2%、その他1%。これはスペイン征服以降の植民地時代において、ヨーロッパ系(地中海系・北欧系)との混血があまり進まなかった結果だという。すなわち、クスコやプーノなどのアンデス高地の人々は、リマっ子に比べ祖先の血をより濃く受け継いでいることになる。これが同じペルー国内でも住民の顔付が異なる所以というわけだ。
ちなみに、同調査による日本人の平均的な「血筋」は北東アジア系が75%、東南アジア系が25%。北東アジア系DNAは大昔のシベリア東域および中国北域(何れも現在の地勢に準拠)への移民に由来、東南アジア系DNAは南方系民族との混血に端を発しているという。世界43地域すべての分析を参照したいという方はこちらへ。
(数値出典: Who am I / National Geographic)