タクシーを降ろされ途方に暮れていると、どこからともなくひとりの男性が現れた。ベロニカの家を訪ねると「すぐそこだ」と教えてくれたが、生憎、彼女は他の村に出かけて留守だという。もう一度ベロニカの携帯に電話をしてみたが、やっぱり繋がらない。サンフランシスコ村ではClaroは役立たずのようだ。
でもベロニカが私のことを自分の母であるテレサに頼んでおいてくれたらしく、その男性がテレサの家まで案内してくれた。助かった、ありがとう!
「フアネの作り方が見たいんだって?待ってたよ~!」とテレサ。ちなみにここまで案内してくれた男性も、テレサの親戚だそうだ。ふむふむ、どうりで話が早いわけだ。こうしてフアネ@シピボ族の作り方を拝見させてもらうことができました。
「うっっしっし、これが美味いんだよねぇ」鴨を茹でたスープで炊いたご飯を冷ますため、プラスチックのタライに移し替える。鍋底にこびり付いたオコゲを頬張るテレサの、この表情といったら!「あんたも食べるかい?」と、私とワンコにもお裾分け。パリパリのオコゲは香ばしく、クルクマ(ウコン)の僅かな苦味とクミンの香りが鼻腔をくすぐった。
さてフアネの仕上げだ。バナナの葉2枚を十字の形に広げ、そこに炊き立てのご飯を盛り、中心に鴨肉とオリーブを乗せてぐぐっと包み込む。ビハオの葉を使う人が多いようだが、テレサは「私はバナナの葉のほうが好きだね、香りがいいんだ」と言っていた。まあその辺は好みだろう。あとゆで卵や溶き卵を入れることが多いのだが、それも省略。
ご飯を炊いている間、テレサのうちに長期滞在していたカナダ人女性が村を案内してくれた。彼女は何年かに一度サンフランシスコ村にやってきて、アヤワスカを飲んだり瞑想をしながら数か月を過ごすそうだ。自然を愛し、ケミカルなものを避け、アヤワスカが織りなす幻想に身を委ね、精神を解き放ち・・・。これが理想の人生だという。まあ、現実のほうがずっと面白いと思っている私には、ちょっと真似できない生き方だけどね。人それぞれ。
写真を撮られ慣れているテレサ。カメラを向けるとすぐ視線を向けてくれる(この服だって、私が到着してからわざわざ着替えてくれた)。それにしても彼女の髪は長くてきれいだ。どんな作業をする時も結ったりしない。サンフランシスコ村の若い女性の中には現代的なヘアスタイルの人も多かったが、この民族衣装にははやり長い黒髪がよく似合う。
「プレゼントする」という申し出を丁重に断り、適当な値段で買わせてもらった。テレサには色々教えてもらったし、食費くらいは払わなきゃね。彼女の刺繍の布も合わせて購入させてもらった。安くしてくれてありがとう。
本来フアネは明日(24日)食べるものだが、その日の晩御飯として宿で頂いた。野性味あふれすぎる鴨肉は、硬過ぎて正直歯が立たない。歯がボロボロなテレサたちは、この鴨を食いちぎれるのだろうか?その代り、鴨の旨味をたっぷりと吸ったご飯はとても美味しかった。
この日は結局ベロニカには会えずじまいで、彼女にと持参した古着はテレサがにこにこと懐にしまってしまった。「シピボって食事はみんなで一緒に食べるけど、物は分け合ったりしないんだよね」とはシピボ博士あやちゃんの言だが、まさにその通りらしい。
森での狩はいつも順調とは限らない。だから仕留めた獲物は常にみんなで分かち合う。そうしておけば、自分が狩に失敗した時も誰かが分けてくれるだろう。
しかし、彼らの暮らしに「物質」が入ったのはつい最近のこと。よりよく暮らすためにはあったほうがいいが、それがなくても命に別状はない。物」は、彼らの分けるという「ルール」に当てはまらないのではないだろうか。だから例えTシャツが複数あったとしても、家族で分けるという発想が湧かないのかもしれない。
シピボ族の習慣についてはまだ何も知らない。それを知るためにこの村に寝止まりするなら、それはそれで面白いだろうと思う。