九州にて いち

佐賀2月中旬。冬真っ只中の松本から春の足音が聞こえる南国九州へ。鹿児島・島津藩のお屋敷跡では、すでに寒緋桜が満開だった。紅白の梅も美しく、愛らしいメジロのつがいを何度も見かけた。ところで九州地方は雛祭りが盛んな土地だ。各県で雛祭りのイベントが開催されており、2月から3月にかけて雛巡りを楽しむことができる。

端整なお顔に金糸を織り込んだ豪華な衣装、小さな嫁入り道具には本物と寸分たがわぬ丁寧な細工が施されている。作り手の技術の高さにはもちろん感心するが、同時にこれらを事細かに注文した親の熱意にも感服。娘の健やかな成長と幸せを願う親の気持ちは、いつの時代も変わらない。

端午の節句こちらは鹿児島・指宿で見た雛人形。古式ゆかしいものから夫婦たぬきまで、大小さまざまなお雛様が飾られていた。段飾りのほうが豪華だが、場所を取るし収納にも困るということで、最近はこうした夫婦雛を飾るお宅がほとんどだ。個性的なお雛様が多い分、持ち主のセンスやこだわりもよく見える。

花友人を訪ねて佐賀へ。彼女の生まれ育った場所、いわばその人の原風景を知るという行為は、ちょっぴり不思議な感じがする。

ちょうど「佐賀城下ひなまつり」の開催中だった。歴史的建造物や古い民家が今も多く残る城下町。至る所に花々が活けられており、人々の眼を賑わせていた。こうした花めぐりだけでも十分楽しい。

古今雛佐賀鍋島家の支藩である小城鍋島家に伝わる「古今雛」。古今雛は1772~1780年ごろに作られた江戸独自の雛人形の種類だそうで、その豪華で鮮やかな衣装と写実的で精巧な顔が特徴なのだとか。面長で下膨れ、切れ長のつり上がった目。ああ、私もこの時代に生まれればさぞや世を賑わす美女と歌われたであろうに・・・と思うとちと複雑。

雛壇明治18年に両替商をしていた古賀善平が設立したという旧古賀銀行には、先の古今雛や数々の由緒あるお雛様が飾られていた。こちらの階段を埋め尽くす雛飾りも見事!

現在は歴史民俗館として利用されており、大正5年当時の姿に復元されたレトロな建物にはおしゃれなカフェも併設されている。いつかここでゆっくりとお茶を楽しみたいな。

また特別展示として、劇団ひとみ座所有の人形劇用の巨大人形も飾られていた。ひょっこりひょうたん島や孫悟空、シェイクスピアのリア王など、お雛様とは関係ないけどこちらも見ごたえあり。

扇前述の銀行を創設した旧古賀家の屋敷跡にて、お座敷遊びの一つ、投扇興(とうせんきょう)を競う。扇をふわりと飛ばしながら的に当てるのだが、これがなかなか難しい。正座も続かず的にかすりもせず。風流で小粋な遊びができぬ悲しい現代人でございます。

柳川の「さげもん」こちらは福岡県柳川市のつるし雛「さげもん」。「もともとは奥女中の嗜み教養のひとつとして、お姫様が生まれると琴爪入れなどにつかう袋物を姫様の健やかな成長を願い繕い贈ったのがはじまり(wikiより)」なのだとか。こちらのさげもんにはハイハイする赤ちゃんを模った「這い人形」がぶら下がっている。様々な願いをこめて一つ一つ手作りされるさげもん雛。とても素敵な風習だ。

変り雛今回は伝統的なお雛様の他、創作雛もたくさん見ることができた。可愛い赤ちゃん雛とか、動物を模った変わり雛とか。その中で気に入ったのがこの年寄り雛。お内裏様もお雛様も白髪のじいさま・ばあさまで、三人官女も五人囃子もみんな好き勝手なことしてる。

「雛祭りは楽しかなぁ 白酒が旨かぁ」

祝いのおこぼれを貰っていい具合に酔っ払ってるこの二人。これが男女ならまさに我が夫婦の姿だわ。おほほ。

今日は3月3日のひな祭り。世の女の子たちに幸多かれ。