メキシコ先住民言語であるナワトル語の “tamalli(タマリ=包む)” を語源とするトウモロコシ製のチマキ、Tamal(タマル/複数形はタマレス)。新大陸に米や小麦が伝わるはるか以前から、ラテンアメリカの伝統食として各地で愛されてきました。
タマルがペルーの歴史に登場するのは17世紀初頭のこと。それまでペルーにおけるトウモロコシのチマキといえば、プレインカの時代から食べられてきた“Humint’a(ウミンタ)=Humita(ウミータ)” でした。シンプルで素朴な味わいのウミンタにさまざまな香辛料を加えたのは、料理上手で知られるアフリカ系の黒人たち。19世紀を代表するペルー人画家パンチョ・フィエロも、ロバに乗ってタマルを売る黒人tamalero/tamalera(タマル売り)の姿をいくつも描き残しています。
ここでタマルとウミータの違いをご説明しておきましょう。
タマルは精製されたトウモロコシの粉、または水に浸けた乾燥トウモロコシを挽いたもので作ります。ラードやショートニングを加えるため、見た目にツヤがあり舌触りも滑らか。サイズは一般的にウミータより大きく、味付けした肉やオリーブ、茹で卵などの具材を入れるのでボリュームもあります。これにパンとサルサ・クリオージャを添えれば、ペルー定番の朝食メニューになります。
ウミータの最大の特徴は、生のトウモロコシから作ること。トウモロコシの風味が生きるよう味付けはタマルより控えめで、卵と砂糖を加えた甘いウミータもあります。包むのはパンカと呼ばれるトウモロコシの皮。タマルよりずっと小ぶりなので、食事というよりオヤツ的な感覚かもしれません。
時々「しょっぱいのがタマルで、甘いのがウミータ」と勘違いしている人がいますが、甘いタマルもあれば、しょっぱいウミータもあるんですよ。またタマルはバナナの葉で包むのが定番ですが、トウモロコシの皮で包む場合もあります。とにかく「乾燥トウモロコシか生のトウモロコシかの違い」とご理解いただければOK!ウミータについては後日紹介するとして、今回はまずタマルを作ってみましょう。
【材料】12~3cm×5~6cmのタマル6つ分
- 豚肉(モモでもばら肉でも) 150~200g
- トウモロコシ粉 200g
- たまねぎのみじん切り 1/4個分
- すりおろしニンニク 大1/2
- アヒ・パンカペースト 大1
- アヒ・アマリージョペースト 大1/2
- アヒ・アマリージョ(フレッシュ) 1/3本
- カルド・デ・チャンチョ(ポークブイヨン)またはチキンブイヨン 400ml~
- ラード、またはショートニング 50g
- ブラックオリーブ 6つ
- 茹で卵 1.5個
- バナナの葉、またはアルミホイル、クッキングシート、紐 適量
- 塩コショウ、クミン 適量
- オプション:アチョーテオイル 大1、炒ったピーナッツ 12~18粒
- 付け合わせ:サルサ・クリオージャ
【作り方】
1、鍋に適当な大きさにカットした豚肉とニンニクやタマネギなどのクズ野菜(分量外)、塩少々を入れ、肉がかぶるくらいの水を入れて茹でる。アクを取り、茹で上がった肉と茹で汁(カルド・デ・チャンチョ)を取り分けておく。肉が冷めたらタマルに包むことを考慮しつつ小さく切るか、手で裂いておく。
2、茹で卵を1/4にカットする。アヒ・アマリージョを5~6mm幅の細切りにする。
3、アデレソを作る。別の鍋にラードを入れて加熱し、ラードが溶けたらたまねぎのみじん切りとたまねぎの水分を引き出すための塩一つまみを振り、よく炒める。たまねぎが透明になったらニンニクを入れ、次にアヒ・パンカペーストとアヒ・アマリージョペーストを入れてよく炒める。塩コショウ、クミンを適量入れてよく混ぜ合わせたら、ラードたっぷりのアデレソのできあがり。色付けのアチョーテ・オイルがあればここで入れる(アチョーテの粉、または種を油で熱し、色を抽出したもの)。
4、3の鍋にカルドと1の豚肉を入れて軽く加熱し、肉にアデレソの味を馴染ませ、いったん取り出す。
5、4の鍋にトウモロコシ粉を入れてよく混ぜ合わせる。粉が水分を吸うので、カルドか水を加えて柔らかさを調整して。少々水分を入れすぎても加熱するうちにどんどん重いテクスチャーになってくるのであまり気にせず、底が焦げないようしっかりかき混ぜよう。もったりとしてきたらタマルの生地のできあがり。最後に塩コショウで味を調え、扱いやすい熱さになるまで冷ましておく。
5、タマルの生地を冷ましているうちに、包むものを用意。バナナの葉を使う場合はよく洗ってコンロの火で軽く炙っておく。アルミホイルやクッキングシートはもちろんそのままでOK。それらを適当な大きさ(長辺の2倍、短辺の3倍の長さを目安に)にカットしておく。タマルを縛る紐も準備して。
6、バナナの葉にタマルの生地を1/6量より少な目に乗せて豚肉とブラックオリーブ、茹で卵、カットしたアヒ・アマリージョ、ピーナッツ(オプション)を置き、その上にタマルの生地を少し乗せ、生地が漏れないようしっかり包んで紐で縛る。これを6つ作る。
7、深鍋の底に皿や蒸しザルなどを置き、その上にタマルを並べる(バナナの葉の切れ端があればそれを敷いて)。水を多めに入れて蓋をし1時間半ほど蒸す。途中で水が蒸発してしまわないよう、適宜確認すること。圧力鍋を使う場合は30~40分で完成。
8、蒸しあがったタマルを取り出し、網の上などで自然に冷ます。蒸しあがりはとても柔らかいので、形が崩れないよう気を付けて。冷めたらサルサ・クリオージャを添えて召し上がれ。
【Keikoからひとこと】
前々から「タマルってなんでこうお腹に溜まる(シャレじゃありません)のか」と思っていたのですが、自分で作ってみて納得。これだけラードが入っていたら、そりゃお腹が膨れて当然ですね。あるレシピではラードに加え、サラダオイルも入れるとありました。生地はさぞかし滑らかだろうし、口当たりもいいでしょうが・・・食べるのコワイよー!しかも市販のタマルはもっとサイズが大きいですからね。もう笑うしかありません。
ペルーにはご当地タマルがいろいろあり、ノルテではクラントロを加えた「Tamal Verde(タマル・ベルデ=緑のタマル)」が有名。黒人文化の影響が濃いからか、リマ南部のマラやチンチャなどもタマルの名産地として知られており、週末にわざわざ買いに行く人がいるほど。私も以前マラ産のタマルを頂いたことがありますが、とても美味しかったです。そりゃ熱烈なファンがいるのも頷けます。
ということで、ペルー人のぽっこりした下腹はご飯とパスタとパンと砂糖だと思っていましたが、タマルの影響もあると判明。恐るべしタマル、これもまたペルーの味ですね(笑)。