Sudado de Pescado スダード・デ・ペスカード

焼くか煮込むかが多いペルー料理にあって、数少ない蒸し料理のひとつが、このsudado de pescado(スダード・デ・ペスカード)。初めてこの料理と出会った時、熱々の蒸気に晒された魚を“sudado=汗だく”と表現したペルー人のセンスに脱帽してしまいました。

プレヒスパニックの時代から魚を食べ続けてきたペルー人が、海の幸を蒸して食べることは自然発生的にあったでしょう。そこにアヒを加えたり、野菜を追加することもあったかもしれません。普通に美味しいけれど、特筆すべきことは何もない。そんな誰からも注目されなかった料理を、今の姿に“再構築”したひとりの日系人がいたのだそう。それがセビチェリア「La Buena Muerte」の創業者、ミノル・クニガミ(1918-2004)です。

日系二世のミノルは、当時のペルー人がまだ口にしたことのないタコや貝類を使った料理を創作したり、ペルー料理にショウガやみそを加えるなどして、今日のニッケイ料理の基礎を築きました。魚の蒸し物が得意だったというミノルの味は、今も多くのペルー人を魅了し続けています。

蒸すという調理法は、和食が得意とするところ。素材そのものの味を活かす日本料理の技が日本人移民の子孫に受け継がれ、こうしてペルーの美食の一端を支えていると思うとなんだか嬉しくなりますね。魚の骨や皮からでるうま味やゼラチン質がこの料理最大のポイントなので、作るなら尾頭付きがベスト。もちろん切り身でも構いませんが、その場合は骨や皮が付いたものをお使いください。

【材料】魚1匹分(約2人分)

  • 尾頭付きの白身魚、またはぶつ切り 1匹(この日はcabrilla 約380gを使用)
  • タマネギ 大1個
  • トマト 2個
  • にんにくのすりおろし 大1/2
  • ショウガ ひとかけ
  • アヒ・アマリージョ 1/2本
  • アヒ・アマリージョペースト 大3
  • アヒ・パンカペースト 大1/2
  • 白ワイン 50ml
  • チチャ・デ・ホラ、またはビール+リンゴ酢 or 白ワインビネガー 100ml
  • カルド・デ・ペスカード(フィッシュブイヨン) 100~150ml
  • 塩コショウ、クミン、クラントロ 適量
  • 茹でたユカ芋(キャッサバ)、レモン、ロコトの輪切り、コチャユーヨ(海藻) 適量

¡新食材! 】chicha de jora(チチャ・デ・ホラ)について

今回の新食材はトウモロコシの発酵酒chicha de jora(チチャ・デ・ホラ)、アンデス世界で古くから作られてきた酸っぱいビールです。

チチャ・デ・ホラは使い古しの炭酸飲料のボトルに入れて売られていることがほとんど(自分で飲んだか拾てきたものか不明)。1本で2ソレス(約60円)でした。

チチャ・デ・ホラには大きく分けて2種類あり、発酵が浅いものは甘味を足してドリンクに、発酵が進んで酸っぱくなったものは料理に使います。内部の沈殿物を混ぜようとボトルを振ったら、開封と同時に泡が勢いよく噴出!まさにトウモロコシのビールですね。ちなみに炭酸が抜けきってしまったチチャ・デ・ホラは、リンゴ酢そっくりな味をしています。

チチャ・デ・ホラはビタミンBとミネラルが豊富、疲労回復効果や糖尿病予防効果が期待できます。アルコール度は3%ほど。日本でも通販で入手可能ですが、ビールに対しリンゴ酢(または白ワインビネガー)を1割ほど入れたもので代用できます。

【作り方】

1、魚の内臓やウロコをきれいに取り除き、水分をよく拭きとる。身の両側に切れ目を3~4か所入れて軽く塩を振り、4の段階まで冷蔵庫で保管しておく。

2、タマネギ大1個の中心部(全体の約1/3量)をみじん切りに、残りの外側の部分を大きめのくし切りにする。トマトは種を取ってタマネギと同じくらいの大きさのくし切りに、アヒ・アマリージョは種と胎座(白い筋)を取って細切りにしておく。

3、アデレソを作る。魚が収まるくらいの鍋か深めのフライパンに油を敷き、タマネギのみじん切りとタマネギの水分を引き出すための塩ひとつまみを入れて炒める。タマネギが透き通ってきたらニンニクを加え、次にアヒ・アマリージョペーストとアヒ・パンカペーストを入れてよく炒め合わせる。軽く塩コショウとクミン、オレガノを加えて炒めたらアデレソのできあがり。

4、3の鍋に白ワインとチチャ・デ・ホラを入れてアデレソと混ぜ合わせ、さっとアルコール分を飛ばす。くし切りにしたタマネギとトマトの半量を敷き詰め、その上に1の魚を置く。魚の上から残りのタマネギとトマト、アヒ・アマリージョの細切り、叩いて潰したショウガを入れる。カルドを加えて蓋をし、10分ほど蒸し煮にする。

5、魚に火が通ったらショウガを取り除き、煮汁を全体に回しかけ、塩コショウで味を調えたらできあがり。魚を崩さないよう器に盛り、クラントロを散らす。お好みで茹でたユカ芋やロコト、コチャユーヨを添え、レモン汁を軽く絞って頂こう。

【keikoからのひとことアドバイス】

ペルー料理は時間をかけて煮込むものが多いため、スープ(カルド/出汁)は美味しいけれど具の味は抜け気味?というものも少なくありません。でもスダードは少量の水分だけで魚を蒸しているので、身もふっくら。とはいえアデレソや下に敷いた野菜が焦げても困るので、白ワインやカルドの量は魚の大きさに合わせて調整してくださいね。淡泊ながらふわっと柔らかく仕上がった魚の身と、濃厚で複雑な味わいの煮汁のコントラストをぜひお楽しみください。

ペルーではこのスダードに茹でたユカ芋(キャッサバ)を加えることが多く、それもまた抜群の相性。ジャガイモではなくユカを持ってきたところが素晴らしいと思います。でもとりあえず白いご飯があれば何もいりません。お皿に残った煮汁にご飯を混ぜて、最後の一滴まで食べつくしてください(ここにレモンをきゅっと絞ると最高!)。

また今回cochayuyo(コチャユーヨ/海藻)が手に入ったので、ちょこっと添えてみました。アンデスの先住民は、プレヒスパニックの時代からこのコチャユーヨを食べてきたんですよ。この海藻を使ったレシピはまた別途ご紹介しますね。

日本人の口に絶対あうスダード。尾頭付きが手に入ったら、ぜひ作ってみてください。