ペルー料理に欠かせない食材Ají(アヒ/トウガラシ)、その起源はペルー南部からボリビアにかけてのアルティプラーノだといわれています。紀元前1万8000年ごろに誕生したアヒはアンデスから中南米各地に広がり、新大陸の人々にとって貴重な食べ物となりました。例えばペルー・アンカシュ州ギタレロ洞窟からは、紀元前8000年ごろに当時の人々が豆類やカボチャと合わせてアヒを食していた形跡が見つかっています。
ガストン・アクリオ監修、ペルー農業省発行の「Ajíes peruanos: Sazón para el mundo」によると、“axi(アヒ)”はカリブ海に浮かぶ島々に暮らしていたタイノ族(アラワク族とも)の言葉だそう。1492年にコロンブスの船団が初めて接触した西半球の人々がアヒと呼んでいたのは、トウガラシの一種であるパプリカの原種でした。アヒに魅了されたスペイン人たちはすぐさま本国へ持ち帰り、栽培を開始。スペイン全土からヨーロッパ、オスマントルコやハンガリー、そして東アジアへと広がっていったのでした。
ペルー料理でアヒを使わないものを探すのが難しいくらい、ありとあらゆる料理に使用されるアヒ。アヒを制する者はペルー料理を制すといっても過言ではありません。今回はペルーで最も一般的に使われる3種類のアヒの紹介と自家製アヒペーストの作り方、最後に市販品との味の違いをまとめてみました。
【アヒの紹介】
- アヒ・アマリージョ/Capsicum baccatum var. pendulum
ペルー料理で最も多く使用されるアヒで、光沢のあるオレンジ色のボディが特徴。香りがよくジューシーで、辛さの中にもまるでフルーツのような爽やかな酸味が感じられます。未熟時は鮮やかなグリーンであることからアヒ・ベルデ(緑のアヒ)とも、ペルーのescabeche(洋風マリネ、いわゆる南蛮漬け)に欠かせないことからアヒ・エスカベチェとも呼ばれるアヒ・アマリージョは、まさにペルートウガラシ界のトップスターです。
- アヒ・ミラソル/Capsicum baccatum var. pendulum
mirasol(mirando al sol/太陽を見る)の名の通り、アヒ・アマリージョを天日干しにしたもの。リマのほか、アレキパやモケグア、タクナなどペルー南部でよく使われています。アヒ・アマリージョのような爽やかな酸味はありませんが、その分旨みが凝縮されており、煮込み料理との相性も抜群。フレッシュなものより辛さも控えめなので「料理をオレンジ色に仕上げたいが、辛いのはちょっと」という人はアヒ・ミラソルを使うといいでしょう。
- アヒ・パンカ/Capsicum chinense
ペルートウガラシ界の主役のひとつといえば、やはりアヒ・パンカでしょう。アヒ・コロラドとも呼ばれるこのアヒがフレッシュな状態で市場に出回ることはなく、常に乾物として売買されます。黒みがかった紅色が特徴で、色付けに使われることも(だからcolorado=赤色)。アヒ・アマリージョやアヒ・ミラソルより辛味は控えめですが独特の風味があり、スープや煮込み、肉料理に多く使われます。
【アヒペースト 基本の作り方】
アヒをカットして、辛味の素である種と胎座・隔壁(白い筋)を取り除く(辛いのが好きなら多少残っていてもよし)。沸騰した湯にアヒを入れ、5~10分茹でる。冷めたらミキサーまたはブレンダーにかけてペースト状になったらできあがり。
※注意点
1、アヒ・ミラソルやアヒ・パンカは砂や埃がついていることが多いので、よく洗うこと。ペースト作りの前に一晩水に浸けておくと、茹で時間も短くて済む。水でよく戻したアヒを茹でず、そのままミキサーにかけるというレシピもあり。
2、より滑らかなペーストにしたい場合は、アヒの皮を取り除こう。茹でた後、鍋の湯を捨てて蓋をしてしばらく放置しておくと皮を剝きやすくなる。または皮ごとミキサーにかけ、あとでザルなどで漉してもいい。
3、ミキサーにかける時は水を極力加えないこと。水分が多いと味が薄まるだけでなく、油で炒める時に周囲に飛び散って悲惨なことに!
【自家製 vs. 市販品】
え~、正直にいうとまったく違います。どちらが美味しい・まずいではなく、単純に味が違う。市販品には塩とクエン酸が大量に含まれており、なんというか自家製アヒに梅干しを混ぜたような感じなんですよね。そのままサルサ(ソース)としても使えるくらい、味がしっかりついているんです。
市販品を大量に使うとどうしても塩辛くなってしまうので、ペルー料理を作る際はそのレシピに使われるアヒが自家製なのか市販品なのかをご確認ください。当サイトの『おうちでペルー料理』では、注釈がない限り自家製アヒペーストを使用しています。冷凍のアヒや市販品はキョウダイマーケットで購入できます。