10月10日(土)、一人の日本人青年が無人のマチュピチュ遺跡を訪問した。片山 慈英士(カタヤマ・ジェシー)さん、26歳。ペルーのロックダウン直前にクスコ入りし、マチュピチュ村で7か月過ごしている唯一の外国人観光客だ。その片山さんに今回インタビューすることが出来た。
世界一周旅行中だった片山さんが、ボリビアのラ・パスからペルーのクスコへとやってきたのは3月15日。その足でマチュピチュ村へ移動、翌日にはマチュピチュ遺跡を見学する予定だった。しかしペルーは3月16日にロックダウンで国境が封鎖され、インカの空中都市もその門を固く閉ざしてしまった。
帰国を急ぐ多くの観光客同様、片山さんもその進退について大いに悩んだという。しかし彼が出した結論は村に留まることだった。村での監禁生活を、自身の夢を叶えるための準備期間に充てたのだ。トレーナーとして自身のボクシングジムを持つのが夢だという片山さんは、日々の体力づくりと並行し、資格取得のための勉強を始めた。「何もない村での生活が、勉強に集中するのに最適な環境だったんです」これまでも旅の途中で子供たちにボクシングを教えてきたという彼は、マチュピチュ村の子供たちにも勉強のかたわら指導を続けている。
そんな片山さんにマチュピチュを見せてやりたいと、周囲のペルー人たちが支援活動を開始した。最初のきっかけは10月4日に掲載されたラ・レプブリカ紙の記事だ。彼のもとにはそれを見たという人たちからの励ましのメッセージがたくさん寄せられたという。決め手になったのは、7日に宿のオーナーの知人がfacebookにアップした動画だった。その2日後にはマチュピチュ村役場に呼ばれ、「今リマに見学許可申請を出している」と状況を報告されたそうだ。
「周りの人たちがものすごく動いていてくれて、自分も何が何だか分からないうちに決まった感じです。とにかく自分でも驚いているし、本当に感謝しています」と、片山さんは未だ興奮冷めやらぬといった口調でその日の出来事を筆者に伝えてくれた。
10日午前、遺跡公園の管理責任者ホセ・バスタンテ氏らとともにマチュピチュ遺跡を訪問した片山さん。当日は天候もよく、最高の見学日和だった(写真参照)。「10月中には日本に帰国しなければならないギリギリの状況の中で、僕の夢を叶えてくれたペルーの人たちに心からお礼をいいたい。また必ずここに戻ってくると思います」と片山さんは話す。
片山さんの特別見学許可を出したペルー文化相アレハンドロ・ネイラは8日の声明で、「(観光客を安全に迎える防疫プロトコルの確立に時間を要するため)マチュピチュ遺跡の見学は、少なくとも11月より前に再開されることはないだろう」と述べていた。その直後に起こった奇跡。片山さんの幸運を心から喜ばしく思う。
片山さんのYoutubeはこちら
※当地新聞各紙では片山さんのペルー入国日は3月14日となっているが、15日の誤り。